CADデータの受け渡しで確認すること|形式・必要情報・機密・改訂の実務

設備やCAD図面のデータを必要な範囲に整理して共有するイメージ

機械設計では、客先や設計協力会社、加工・製作業者などとCADデータを受け渡す機会があります。相手によって使っているCADが違うこともあり、DWG、DXF、STEP、PDFなど、さまざまなファイル形式を使い分けます。

ただし、CADデータの受け渡しで重要なのは、ファイルを開けることだけではありません。相手が何の作業に使うのか、必要な情報がそろっているか、どの版を使用するのか、そして、その情報を提供してよいのかまで確認する必要があります。

例えば、生産設備の配置を検討するためのデータと、部品を加工するためのデータでは、必要な情報が違います。3Dモデルの形状が正しく伝わっても、材質や公差、加工条件まで伝わっているとは限りません。

この記事では、生産設備や機械設計での受け渡しを中心に、必要な情報の考え方、CAD形式の使い分け、機密保持、送信前と受領後の確認を実務の流れに沿って整理します。

目次

CADデータは何のために受け渡すのか

CADとは、コンピューターを使って設計や製図を行うための仕組みです。機械設計では、2D CADで図面を作成したり、3D CADで部品や設備の形状・配置を検討したりします。

CADで作った図面やモデルは、設計者だけが使うものではありません。客先との打合せ、設備の配置検討、設計協力会社との作業分担、加工・製作の依頼など、さまざまな工程で使われます。

そのため、最初に確認したいのは拡張子ではなく、誰が、何を確認・作業するために、そのデータを必要としているのかという点です。

設備の配置や設置条件を確認する場合

客先と設備の配置を検討する場合は、設備の外形、設置位置、作業スペース、周辺設備との関係などが分かる情報を使います。

例えば、工場の既設設備の横に新しい搬送装置を設置するなら、装置の幅や高さだけではなく、前後設備との受け渡し位置、通路、保全スペース、建屋の柱、配線・配管なども関係してきます。

このような検討では、設備の詳細な部品構造まで必要とは限りません。外形や設置基準を示したレイアウト図、必要な範囲に整理したCADデータ、PDFなどで検討できる場合もあります。

ワークを扱う機構を設計する場合

生産設備でいう「ワーク」とは、設備が搬送・加工・組立・検査などの対象とする製品や部品、素材などです。

ワークを搬送する機構を設計する場合、まず形状や大きさ、姿勢などの情報が必要になります。設備の仕組みによっては、質量や重心、保持できる場所、接触させてはいけない面なども確認します。

ここで必要なのは、必ずしも客先製品の詳細な設計データ一式ではありません。外形や必要な部分の形状が分かれば、初期の配置や機構を検討できることもあります。

さらに細かい情報が必要になったときは、なぜその情報が必要なのかを客先へ説明し、提供可能な範囲を相談します。

例えば、保持する部分の形状を決める必要があれば、その接触部分の情報を確認します。ワークの移動時の干渉を検討するなら、移動範囲に関係する外形や姿勢が必要です。

最初から詳細データをすべて要求するよりも、設計で必要な理由と範囲を整理する方が、客先との確認も進めやすくなります。

部品の加工や製作を依頼する場合

加工・製作業者へ渡すデータでは、配置検討とは確認する内容が変わります。

部品の形状だけではなく、材質、寸法、公差、表面粗さ、熱処理、表面処理、数量など、製作に必要な条件を伝えなければなりません。必要な情報は、加工方法や部品の種類によっても異なります。

3D CADのモデルから形状や寸法を取得できる場合でも、すべての製作条件が形状だけで表現されているわけではありません。

図面や仕様書を併用する場合もあれば、3Dモデルに製造情報を持たせる方法や、加工サービスの画面で公差などを指定する方法もあります。どの方法を使うにしても、製作を依頼する相手に必要な条件が正しく伝わることが重要です。

CADデータを受け取るときに確認したいこと

設備設計のためにCADデータを受け取るときは、まず今回の設計に何が必要なのかを整理します。

例えば、設備の外形を配置するだけなのか、ワークの形状を使って機構を検討するのか、既設設備の一部を改造するのかによって、必要な図面やモデルが異なります。

これまでの業務では、可能であればCADデータとPDFの両方をお願いしています。

CADデータでは、図形や形状、寸法、位置関係などを確認し、必要な設計検討に利用します。一方、PDFでは、元の図面でどのように寸法や注記が表示されていたかを確認できます。

ただし、CADとPDFの両方があるからといって、内容が一致しているとは限りません。更新日や改訂番号が異なる場合もあるため、どの資料を今回の正式な設計条件として扱うのかを確認します。

受領したデータに不足があるとき

CADデータを受け取っても、必要な部分の形状が省略されていたり、寸法の基準が分からなかったりすることがあります。

その場合は、単に「詳しいデータが欲しい」と伝えるのではなく、何を判断するために、どの情報が不足しているのかを整理します。

例えば、搬送装置の高さを検討するために受け渡し位置の寸法が必要なのか、取付部分の設計をするために穴位置や基準面が必要なのかでは、確認する相手や資料も変わります。

すぐに情報を受け取れない場合は、確定している条件、仮に置いている条件、まだ確認できていない条件を分けます。必要な情報がそろわないまま、推測した寸法を確定値として使わないようにします。

既設設備や建屋のCADデータは現物との違いにも注意する

既設設備の改造や、既存の工場へ設備を追加する場合は、受領したCADデータが現在の状態を表しているとは限りません。

過去の改造や部品交換、設備の移設などが図面へ反映されていないこともあります。必要に応じて最新資料、改造履歴、現物確認などを組み合わせ、今回の設計でどの位置や寸法を基準にするかを確認します。

詳しくは既設設備の改造設計|図面がない・現物と違うときの確認でも取り上げています。

DWG・DXF・STEP・PDFは何が違うのか

CADデータの受け渡しでは、相手と同じCADを使用しているとは限りません。異なるCADやソフトウェアの間で図面やモデルを利用するために、ファイル形式の選択が必要になります。

CADで作成した元の編集用データを「ネイティブ形式」、別のCADへ情報を渡すための形式を「中間形式」や「交換形式」と呼ぶことがあります。

ただし、ファイル形式が同じでも、相手のソフトウェアやバージョン、読み込み機能によって利用できる情報は変わります。

DWG:AutoCAD系で使われる図面形式

DWGは、AutoCAD系製品の代表的なネイティブ形式です。2D図面だけでなく、3Dの図形やオブジェクトも保存できます。

AutoCAD以外でもDWGを読み書きできるソフトウェアはありますが、同じ内容を完全に扱えるとは限りません。

また、AutoCADにはDWG形式のバージョンがあります。新しいAutoCADで保存した図面が、古いAutoCADでそのまま開けるとは限らないため、相手の使用環境を確認します。

古い形式で保存できる場合もありますが、保存形式を変えた後は、図形や注記などが正しく残っているか確認します。

DXF:異なるCAD間で図面情報を交換する形式

DXFは、CADやほかのソフトウェアの間で図形情報を交換するために使われる形式です。

機械設計では2D図面の交換に利用する機会がありますが、DXFが2D専用という意味ではありません。3Dに関係する図形情報も扱えます。

注意したいのは、読み込むソフトウェアによって、文字、寸法、線種、レイヤーなどの扱いが異なることです。

例えば、図形は読み込めても、寸法文字や注記が表示されない場合があります。DXFへ変換したときだけでなく、相手側のソフトウェアで読み込んだ結果まで確認することが大切です。

STEP:異なる3D CAD間でモデル情報を交換する形式

STEPは、ISO 10303に基づく製品モデルデータの交換形式です。拡張子には「.step」「.stp」などが使われます。

異なる3D CAD間で、部品の形状や組立モデルなどを受け渡す際に利用されます。STEPの規格や形式には、形状だけでなく、製品の製造情報などを扱う仕組みもあります。

ただし、STEP形式なら、元のCADにあるすべての情報が必ず引き継がれるというわけではありません。

元のCADで設定した部品の拘束、作成履歴、属性、寸法・公差などを、相手のCADがどこまで利用できるかは、出力条件や対応機能によって変わります。

例えば、3Dモデルの形状は確認できても、元のCADと同じように設計変更できないことがあります。また、組立モデルを読み込んだ際は、部品の位置関係や構成が意図どおりになっているかも確認が必要です。

PDF:図面の表示内容や指示を確認する形式

PDFは、CADで作成した図面を、相手が内容を確認しやすい形で渡すときに役立ちます。

寸法、注記、図枠、部品番号、改訂情報など、図面として表示したい内容を確認できます。相手が同じCADを持っていない場合にも利用しやすい形式です。

一方、一般的な2D図面のPDFは、CADの元データと同じものではありません。PDFから図形情報を取り込める場合もありますが、元のCADと同じ編集情報や精度が得られるとは限りません。

PDF上の図形を測定した結果を、そのまま元の設計寸法として採用することにも注意が必要です。正式な寸法や製作条件は、図面に記載された数値や確認済みの設計資料を基準にします。

ファイル形式は相手の作業内容で選ぶ

例えば、2D図面を相手のCADで利用してもらうならDWGやDXF、異なる3D CAD間で形状を受け渡すならSTEPなどが候補になります。図面の表示内容を確認してもらうならPDFが適することもあります。

ほかにも、使用するCADや加工システムによって、Parasolidなど別の中間形式を使用する場合があります。

どの形式がよいかは、相手が使用するソフトウェアとバージョン、必要な情報、編集の有無などを確認して決めます。特定の形式を万能なものとして考えないことが大切です。

3Dモデルの形状と製作条件は分けて確認する

ここは、CADデータを加工・製作に利用するときに特に注意したい点です。

3Dモデルは、部品の形状を立体的に把握でき、寸法や干渉の検討にも役立ちます。しかし、完成形状が分かることと、その部品をどの条件で製作するかが分かることは別です。

例えば、穴の直径が同じモデルでも、その穴が位置決めに使う精度穴なのか、ボルトを通すための穴なのかによって、求める寸法公差や加工条件が異なることがあります。

表面処理や材質、熱処理、検査条件なども、3Dの外形だけでは判断できません。

実際の加工サービスでも、3Dモデルのアップロード後に、公差や加工条件を別途指定する仕組みがあります。

ミスミのmeviyでは、3D CADのネイティブ形式と中間形式を扱っていますが、機能や対応範囲には違いがあります。例えば、iCADの寸法公差連携に関する公式説明では、対象となる寸法公差の自動連携はネイティブ形式に限られ、中間形式は対象外とされています。

これは、そのサービスの対象機能に関する条件であり、すべてのSTEPデータで公差情報を扱えないという意味ではありません。

大切なのは、元データに情報が存在するかだけではなく、受け取る側で、その情報が正しく利用できる状態になっているかを確かめることです。

加工・製作を依頼するときは、CADデータ、図面、仕様書、見積依頼時の指示などを照らし合わせ、必要な条件の漏れや食い違いがないか確認します。

CADデータを外部へ渡す前に機密情報を確認する

CADデータには、設備や部品の形状だけでなく、客先の製品情報、製造方法、設備構造、工場内の配置など、外部へ公開できない情報が含まれることがあります。

自分で作成した図面やモデルであっても、第三者へ自由に提供できるとは限りません。

まず、客先との契約や秘密保持契約(NDA)、守秘義務、設計データの取扱条件などを確認します。契約の形や必要な手続きは取引によって異なるため、不明な場合は客先や契約・情報管理の担当者へ確認します。

特に確認したいのは、提供する相手、利用目的、提供できる範囲、さらに別の協力会社へ再提供できるかという点です。

例えば、客先との全体配置の打合せでは、詳細な部品図や編集用CADデータまで渡す必要がなく、目的を満たすPDFなどで対応することがあります。

一方、加工を依頼する相手には、製作に必要な図面やCADデータを、取り決めに沿って提供します。

同じ設備に関係する資料であっても、すべての関係者へ同じ情報を一式提供する必要はありません。

渡す範囲を減らす場合も必要な情報は残す

3Dモデルであれば、必要な部分だけを抽出する、詳細な内部構造を省いた外形モデルにするなど、用途に応じて提供範囲を調整する方法があります。

ただし、形状を簡略化したために、取り付け位置や干渉確認に必要な部分まで失われてしまっては意味がありません。

また、図面の図枠、部品表、注記、レイヤー、非表示部品、モデルの属性、ファイル名などにも、提供する必要のない情報が残っていないか確認します。

PDFに変換しただけで機密が守られるわけではありません。 PDFでも文字や寸法、図形、配置などの情報を読み取れるため、含まれる内容そのものを確認します。

メールやクラウドの利用にも取扱条件がある

CADデータの送信には、メール、客先指定のクラウド、ファイル転送サービスなどが利用されます。

ただし、便利だからという理由だけで外部サービスを選べるとは限りません。客先や会社の情報管理ルール、契約条件などを確認し、利用が認められた方法を使います。

送信するときは、宛先、共有先、ファイルの内容、閲覧・編集権限、共有リンクの公開範囲などを確かめます。必要に応じて、アクセス期限、再提供、保存、削除の条件も確認します。

ファイル容量が大きく、通常のメールで送れない場合もあります。そのときは指定された転送方法を確認し、無断で別のサービスへアップロードしないようにします。

送信前と受領後は、CADデータの内容を照合する

CADデータの受け渡しでは、ファイルが開かない、文字が化ける、一部の図形が表示されない、寸法や配置が意図と違うなどの問題が起こることがあります。

これまでにも、PDFと見比べる、別の形式へ変換する、ほかのCADで開く、相手へ再提供を相談するなど、状況に合わせて対応してきました。

重要なのは、保存や変換、送信ができたことだけで完了とせず、相手が必要な情報を利用できる状態か確認することです。

図形・寸法・単位・位置関係を確認する

2D図面なら、外形寸法、穴位置、文字、寸法値、線種、レイヤー、図枠などを確認します。

3Dモデルなら、形状、部品の数、位置関係、向き、必要な構成が正しく読み込まれているかを確認します。

どちらの場合も、単位と尺度には注意が必要です。例えば、元の図面やモデルがmm単位で作られていても、読み込む側の設定や変換方法が異なれば、想定した大きさにならないことがあります。

また、別の設備やモデルへCADデータを配置するときは、単に大きさが合っているだけでなく、原点、基準位置、方向などが合っているかも確認します。

設備の取り合いを検討する場合は、外形だけでなく、取付基準やワークの受け渡し位置など、設計に直接関係する部分を優先して照合します。

DWGの外部参照や関連ファイルにも注意する

AutoCADなどでは、別の図面を参照して表示する「外部参照」という機能を使うことがあります。

外部参照を使った図面は、元のDWGファイルだけを送っても、参照先の図面や画像が表示されないことがあります。

Autodeskには、関連ファイルを送信用にまとめるeTransmitという機能もあります。ただし、まとめたファイルに、相手へ提供してはいけない図面や情報が含まれていないかは別に確認します。

フォントや外部参照、画像などが不足していないかを確認するとともに、送信先へ提供できる情報だけで構成されているかを点検します。

改訂番号と正式な資料を一致させる

CADデータの受け渡しでは、ファイル名や更新日時だけでなく、図面番号、改訂番号、資料の位置付けなども確認します。

設計途中の確認用データなのか、製作に使用する正式なデータなのかが曖昧なままでは、相手が古い図面を使ってしまう可能性があります。

例えば、CADは修正済みでも、PDFが修正前のまま残っていることがあります。逆に、PDFだけ更新され、CADデータに変更が反映されていない場合も考えられます。

そのような場合は、どちらかを機械的に正しいと判断せず、作成元や客先へ今回採用する版と変更内容を確認します。

受け渡しの際には、対象の図面やモデル、版、用途、未確定事項などが相手に分かるようにしておくと、後から内容を確認しやすくなります。

CADデータの受け渡しで食い違いが起きたときの考え方

CADデータの問題は、すべて同じ方法で解決できるわけではありません。原因や用途によって、確認する内容と対応方法が変わります。

例えば、次のように考えます。

  • 図形は開けるが文字や寸法が表示されない場合は、元のCADでの表示、変換条件、読み込み側の対応機能などを確認する。
  • STEPで読み込んだモデルの位置や向きが違う場合は、座標系、基準位置、出力設定、組立構成などを確認する。
  • CADとPDFで内容が違う場合は、採用する改訂と正式な資料を確認し、必要に応じて修正・再送してもらう。
  • 必要な詳細データを提供してもらえない場合は、使用目的を説明し、部分的な形状や寸法情報など、別の方法で設計条件を確認できないか相談する。

変換したデータを自分のCADで修正できる場合もありますが、元の設計意図が分からない部分まで独自判断で変更しないようにします。

また、受領したデータを使って設計を進めた後に、客先から新しいデータが届くこともあります。その場合は、単に新しいファイルへ差し替えるのではなく、変更された内容が設計済みの部分に影響しないかを確認します。

設計を進めるうえで必要なのは、ファイルを正常に読み込むことだけではありません。何が変わったのか、どこまで確認できたのか、その変更によって何を見直す必要があるのかまで整理することです。

CADデータは設計に使える状態で受け渡すことが大切

CADデータの受け渡しでは、相手のCADで開けることや、希望する拡張子で保存できることも必要です。しかし、それだけで設計や製作に使える情報がそろったとは限りません。

渡す側は、相手が何に使用するのかを確認し、必要な範囲の情報を取り決めに沿って提供します。受け取る側は、何が必要で、どの情報が不足しているのかを整理し、理由を伝えて確認します。

そして、図面やモデルの内容、寸法、基準位置、改訂、製作条件などを照合し、今回の作業に使う資料を明確にします。

CADデータの受け渡しは、ファイルを送って終わりではなく、設計や製作に必要な情報を相手と正しく共有する仕事でもあります。

設備の用途や相手の担当範囲、使用CAD、契約条件が違えば、必要なデータや確認方法も変わります。その違いを踏まえ、必要な情報をそろえ、確認できていない部分を残したままにしないことが、実務では重要になります。

参考資料

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