機械設計は、図面を描いて部品の形や寸法を決めるだけの仕事ではありません。機械が予定どおり動くか、必要な能力が出るか、部品を実際に組み立てられるか、安全に使えるか、修理や点検ができるかまで考える必要があります。
さらに、生産設備や専用機では、納期や費用、製作方法、搬入方法、設置場所なども設計に関係します。図面上では問題がなくても、実際に製作・組立を始めてから問題が見つかることもあります。
人が行う設計である以上、すべての間違いを完全になくすことは簡単ではありません。大切なのは、「どこで間違いやすいのか」を知り、構想、設計、製作、組立、試運転、立ち上げなど、それぞれの段階で確認することです。
この記事では、生産設備や専用機などの機械設計に携わってきた経験をもとに、実務で起こりやすい失敗を7つに分けて整理します。機械設計を始めたばかりの人や、これから機械関係の仕事を学びたい人にも分かるように、専門用語にはできるだけ説明を加えています。
機械設計の失敗は図面だけの問題ではない
「機械設計のミス」と聞くと、寸法を書き間違える、穴の位置を間違える、部品の数量を間違える、といった図面上のミスを思い浮かべるかもしれません。
しかし実際の設備では、それ以外にも多くのことを確認する必要があります。
- 要求された速さで機械が動くか
- モーターやシリンダーの力が足りているか
- 部品同士がぶつからないか
- 実際に工具を使って組み立てられるか
- 壊れた部品を交換できるか
- 安全に操作・点検できるか
- 工場の入口から設備を搬入できるか
個々の部品図が正しくても、設備全体として必要な能力を出せなければ、機械としては成立しません。
反対に、「安全のため」「余裕を持たせるため」と必要以上に大きな機器を選ぶと、価格が上がる、設備が大きくなる、重量が増えるなど、別の問題につながる場合もあります。
機械設計では、一つの計算や一枚の図面だけを見るのではなく、設備全体を見ることが重要です。
機械設計で起こりやすい7つの失敗
1.モーターやシリンダーなどの能力が合っていない
機械には、モーター、シリンダー、軸受、センサーなど、メーカーから購入して使用する部品が数多くあります。このような部品を、ここでは「購入品」と呼びます。
購入品を選ぶときに条件が不足していると、必要な力や速度、寿命を満たせない場合があります。
反対に、余裕を持たせすぎると、必要以上に大きく高価な機器になることもあります。
メーカーの選定ツールが利用できる場合は、設計者自身でも計算や能力確認を行います。判断が難しい場合は、荷重、速度、使用頻度、連続運転時間、使用環境などを整理して、メーカーへ確認することもあります。
現場で起こりやすい例:計算ではシリンダーの力が足りていても、実際の使用条件や摩擦、動かす物のばらつきなどによって、想定した動きにならない場合があります。計算結果だけでなく、「どの条件で計算したのか」を残しておくことも大切です。
2.誰がどこまで担当するかが決まっていない
機械の設計では、機械だけでなく、電気、制御、配管、架台、付帯設備など、いろいろな分野が関係します。
設計の現場では、「誰がどこまで担当するのか」を所掌(しょしょう)と呼ぶことがあります。
また、別の設備や部品と接続する部分、受け渡しをする部分などを取り合いと呼ぶことがあります。
例えば、コンベヤーAからコンベヤーBへ製品を渡す場合、どちらの設備がどこまで作るのか、製品を渡す高さや位置をどうするのかを決めておかなければなりません。
電源、圧縮空気、水など、設備を動かすために工場側から供給してもらうものはユーティリティと呼ばれます。これらの条件も設計前に確認します。
現場で起こりやすい例:機械側は「電気工事側で対応すると思っていた」、電気側は「機械側で準備すると思っていた」という状態になると、工事直前になって部品や作業が足りないことがあります。担当範囲を最初に決めることは、設計そのものと同じくらい重要です。
厚生労働省の「機械設計段階のリスクアセスメントの基本的手法」でも、機械の用途や設置条件、使用する人、保全する人などの条件を整理する考え方が示されています。
3.必要な時間内に機械の動作が終わらない
生産設備では、「何秒ごとに製品を1個つくる必要があるか」という基準時間があります。これをタクトタイムと呼びます。
例えば、30秒に1個つくる必要がある設備なら、機械全体の動作が30秒以内に収まるように考える必要があります。
そのため、移動する、つかむ、加工する、検査する、待つ、次の工程へ渡す、といった動作を時間順に整理します。このような動作と時間を表にしたものをタイムチャートと呼びます。
一つ一つの機器が十分速くても、設備全体として見ると時間が足りない場合があります。
現場で起こりやすい例:機械が動く時間だけを計算すると間に合っていても、センサーの確認、製品が安定するまでの待ち時間、通信、前の工程を待つ時間などを加えると、必要なタクトタイムを超えることがあります。
また、安全のために「ある条件が成立しないと次の動作をさせない」仕組みがあります。これをインターロックと呼びます。この待ち条件も実際の動作時間に影響します。
4.CADでは問題がないのに、実際には組み立てにくい
3D CADでは、部品同士がぶつかっていないかを確認できます。これを干渉チェックと呼びます。
ただし、CAD上で部品同士がぶつかっていなければ、それだけで組み立てられるとは限りません。
現場で起こりやすい例:ボルトは図面どおり入るのに、スパナや六角レンチを動かすスペースがなく、締め付けられないことがあります。
ほかにも、センサーを交換するときに手が入らない、カバーを外さないと消耗品を交換できない、配線や配管を付けると別の部品とぶつかる、といったことがあります。
設計では、機械が動いているときだけでなく、組立、調整、清掃、点検、部品交換をするときの姿勢や作業スペースまで考える必要があります。
また、CAD上では寸法どおりでも、実際には製作・組立のばらつき、たわみ、振動、配線、配管などが加わります。CAD上の確認と実機確認は、どちらも重要です。
5.計算結果だけを見て判断してしまう
強度計算や機器の選定計算は、機械設計で重要な確認方法です。
ただし、計算結果が正しくても、計算に使った条件が実際の機械と違っていれば、その数値だけで安全性や性能を判断することはできません。
例えば、どの方向からどれくらいの力が加わるのか、どこで部品を支えているのか、衝撃や振動があるのかなどによって結果は変わります。
現場で起こりやすい例:通常運転の力だけで計算すると問題がなくても、製品が詰まったときや急停止したときには、通常より大きな力が加わる場合があります。
計算だけで判断することが難しい場合は、試作、テスト、試験、実機確認などを行うこともあります。「何を計算で確認し、何を実際に試して確認するのか」を分けて考えます。
6.図面と部品リストの内容が合っていない
設備を製作するためには、図面だけでなく、使用する部品の型式や数量をまとめた部品リストも使います。
図面と部品リストの型式や数量が一致していないと、必要な部品が届かない、違う部品を購入する、余分に購入するといった問題につながります。
現場で起こりやすい例:似た部品をコピーして図面を作ったあと、型式や数量の一部だけ直し忘れることがあります。設計変更をしたのに、図面だけ変更して部品リストを直し忘れることもあります。
理想は、設計内容を理解している別の人にも確認してもらうことです。しかし、一人で設計している場合や確認できる人が少ない場合もあります。
その場合は、時間を空けて確認する、見る順番を変える、図面から部品リストを確認したあとに部品リストから図面を確認するなど、同じ見方だけで確認しない工夫をします。
私は、数量や計算などの重要な項目は最低2回確認するようにしています。ただし、2回確認したから必ず正しいという意味ではありません。確認回数だけでなく、「何を確認するのか」を決めることが重要です。
7.作れたのに運べない・現地で組み立てられない
機械は、設計して製作できれば終わりではありません。完成した設備を工場まで運び、建物の中へ搬入し、決められた場所へ設置する必要があります。
設備が大きい場合は、運ぶためにいくつかの部分へ分割することもあります。
その場合は、どこで分割するかだけでなく、現地でもう一度組み立てたときに位置や精度を再現できるか、配線・配管をつなぎ直せるか、機械を吊り上げる場所があるかなども確認します。
現場で起こりやすい例:設備そのものは設計どおり完成していても、工場の入口を通らない、クレーンで吊れない、現地で工具を使うスペースがない、といった問題が搬入時に分かることがあります。
海外向け設備では、電圧、周波数、規格、気温や湿度、現地で購入できる部品なども国内と同じとは限りません。
国内で正常に動いた設備でも、輸送後の再組立や現地の条件によって、同じ状態にならない場合があります。設計段階から、搬入・据付・現地調整まで考えておくことが重要です。
安全は「危険を見つけて減らす」ところから考える
機械の安全を考えるときに使われる重要な考え方の一つがリスクアセスメントです。
簡単にいうと、「どんな危険があるのかを探し、その危険がどれくらい大きいのかを考え、必要な対策を決める」という流れです。
例えば、回転している部分に手が触れる可能性があるなら、まず構造そのものを変えて危険を小さくできないかを考えます。それだけでは十分でない場合は、ガードや安全装置などを検討します。
専門的には、危険そのものを設計で減らすことを「本質的安全設計方策」、ガードや安全装置などで人を守ることを「安全防護」などと呼びます。
厚生労働省の「機械設計段階のリスクアセスメントの基本的手法」でも、機械の条件を整理し、危険源を見つけ、リスクを見積もり・評価し、対策を行ったあとに再評価する流れが示されています。
ただし、必要な安全対策はすべての機械で同じではありません。機械の用途、使う人、作業内容、使用環境、法令、規格、顧客の基準などを確認して判断する必要があります。
機械設計は一人だけでは完成しない
機械設計者だけで、設備に関係するすべてを確認することはできません。
機械を実際に加工する人、組み立てる人、配線する人、プログラムを作る人、設備を運ぶ人、操作する人、修理する人では、それぞれ見る場所が違います。
| 関係する人 | 主に確認すること |
|---|---|
| 機械設計 | 構造、強度、精度、部品選定、干渉、組立 |
| 電気・制御 | センサー、配線、機械の動く順番、安全条件 |
| 製作・組立 | 加工できるか、工具が使えるか、組立順序、調整方法 |
| 配管・電気工事 | 配管・配線を通せるか、固定できるか、作業スペース |
| 搬入・据付 | 大きさ、重量、搬入経路、吊り方、現地での接続 |
| 運転・保全 | 操作しやすいか、掃除・点検・部品交換ができるか |
| 営業・工程管理 | 要求内容、費用、納期、変更による影響 |
機械設計者が、すべての仕事を自分でできる必要はありません。
大切なのは、自分で確認できることと、ほかの専門の人へ確認した方がよいことを判断できることです。
現場へ行くと、CADの画面だけでは分からなかったことが見える場合があります。組立作業を見たり、作業者から「ここは工具が入りにくい」「この部品は交換しづらい」と聞いたりした内容を、次の設計へ反映することも重要な仕事です。
実務で確認したい基本の流れ
設備や会社によって設計の進め方は違いますが、基本的には次のような視点で確認します。
- 何をつくる設備なのか、必要な能力や条件を確認する
- 誰がどこまで担当するのか、他設備とのつながりを確認する
- 必要な時間内に設備全体が動作できるか確認する
- モーターやシリンダーなどの能力を計算・確認する
- CADで干渉、動作範囲、組立、点検・交換のしやすさを確認する
- 図面、部品リスト、型式、数量が合っているか確認する
- 危険な場所や動作を確認し、必要な安全対策を検討する
- 計算だけでは判断しにくいものは、試作・試験・実機で確認する
- 仕様や設計を変更した場合は、変更した部分だけでなく周囲への影響も再確認する
この順番が、すべての設備にそのまま当てはまるわけではありません。自動車、食品、医療、化学など、設備を使う分野によって必要な材料、精度、清潔さ、安全対策、規格などは変わります。
機械設計を学ぶときに大切なこと
機械設計には、材料、強度、図面、CAD、モーター、センサー、電気、安全、加工、組立、据付など、たくさんの分野が関係します。
これから機械設計を学ぶ人が、最初からすべてを知っている必要はありません。
一つずつ「これは何のために必要なのか」「実際の機械ではどう使われるのか」を知っていくことが大切です。
本、参考書、学校、資格の勉強から学べる知識は重要です。一方で、実際の現場では、図面どおりに作れない、組立時に工具が入らない、仕様が途中で変わる、現地で寸法が違うなど、教科書だけでは分かりにくい問題も起こります。
現場で起きた問題、製作・組立担当者からの指摘、実際に設備を使う人の意見などを次の設計へ反映することも、機械設計を学ぶうえで重要だと考えています。
まとめ
機械設計の失敗は、寸法や図面の書き間違いだけではありません。
- 機器の能力
- 担当範囲や他設備とのつながり
- 設備が動く時間
- 干渉や組立のしやすさ
- 計算に使った条件
- 図面と部品リスト
- 製作、搬入、据付
こうした内容を、設備全体を見ながら確認する必要があります。
一度の確認ですべてを見つけることは難しいため、構想、設計、製作、組立、試運転、立ち上げなど、それぞれの段階で確認します。
また、計算結果やCAD上の確認だけで、安全性や設計の妥当性が決まるわけではありません。実際の使用環境、製作・組立のばらつき、経年変化、設備の使われ方なども含めて考える必要があります。
生産設備・専用機の機械設計、既設設備の改造、組立図・部品図・部品リストの作成など、機械設計業務に関するご相談は、機械設計のご相談・お問い合わせからご連絡ください。
