すでに工場で使われている機械や生産設備へ、部品の追加、能力の変更、安全対策、故障対策などを行うことを、この記事では「既設設備の改造」と呼びます。
既設設備の改造は、新しい設備を一から設計する場合と前提が異なります。元の図面が残っていない、現場で行われた変更が図面へ反映されていない、長年の使用で位置や状態が変わっている、といった可能性があるためです。
この記事では、生産設備や専用機の改造を始める前に、改造の目的、残す部分、接続する位置、周辺の状態、現地で確認できなかった内容をどのように分けるのかを整理します。
この記事で扱う「既設設備の改造設計」
対象は、工場ですでに使用されている生産設備、専用機、搬送装置などへ、機構や部品を追加・変更する機械設計です。建築設備の改修や、電気回路・PLCプログラムだけの変更は中心にしていません。ただし、機械側の変更が電気・制御、配線、配管、前後設備へ影響する場合は、関係する担当者との確認が必要です。
「既設」は「すでに設置されている」という意味です。「改造」の範囲は案件によって違い、部品一つの交換から、装置の追加、動作変更、レイアウト変更まで含むことがあります。そのため、最初に「何を変えるのか」だけでなく、「何を残すのか」も確認します。
最初に改造の目的と範囲を確認する
現地で寸法を測る前に、改造によって何を変えたいのかを確認します。たとえば、処理する製品を変える、作業者の負担を減らす、故障した部品を別の機種へ置き換える、点検しにくい場所を直すなど、同じ設備でも目的によって必要な調査が変わります。
| 確認する内容 | 具体的に確かめる例 | 確認先の例 |
|---|---|---|
| 改造の目的 | 何に困っているか、何を変えたいか | 依頼者、使用者、保全担当者 |
| 対象範囲 | 交換・追加する部分、残す部分、触れない部分 | 依頼者、設計、現場責任者 |
| 必要な性能 | 対象物、動き、処理量、精度、使用頻度 | 使用者、生産技術、品質担当者 |
| 停止条件 | 調査や工事のためにいつ、どこまで停止できるか | 生産管理、使用者、現場責任者 |
| 担当範囲 | 機械、電気、配管、工事、前後設備を誰が担当するか | 依頼者、各分野の担当者 |
ここで挙げた項目を毎回同じ順番、同じ深さで調べるという意味ではありません。たとえば部品交換なら取付寸法と周辺干渉が中心になることがあり、動作変更なら電気・制御担当者との確認が増えます。調査項目は、改造目的と影響範囲から絞ります。
確認の順序は改造内容と稼働状況で変える
運営者の経験では、現地に着いた後の進め方を「最初に必ず設備を動かす」「先にすべての寸法を測る」とは固定していません。改造の内容を見て、動作中に確認する点、停止中でなければ測れない点、資料や外観から先に確認できる点を分け、当日の稼働状況や立会い条件に合わせて順序を決めています。
| 現地の状況 | 確認方法の例 |
|---|---|
| 設備が稼働していて見られない | 担当者へ確認できる日時を聞き、再確認の日程を調整する。現場の条件が整う場合は、昼休憩などの停止時間を利用することもある |
| 図面や資料が残っている | 事前確認に使うが、その資料が現在の現物と一致しているかを現地で照合する |
| 機械以外の専門分野が関係する | 電気・制御、配管などの担当者と、見られる日時や確認範囲を調整して再確認する |
| その日に確認できない | 確認できた範囲と未確認箇所を分け、推測だけで設計条件を確定しない |
確認の順序や深さは、設備、改造範囲、担当者、停止できる時間によって変わります。一つの進め方をすべての案件の正解とせず、その場で何を確かめなければ設計できないのかを整理します。
図面は現物を確認するための資料として扱う
既存の組立図、部品図、取扱説明書、部品リスト、電気図面、過去の改造記録があれば、現地へ行く前の確認材料になります。ただし、資料が残っていても、その内容が現在の設備と一致しているとは限りません。図面があることと、現物が図面どおりであることを分けて考えます。
現場で部品を追加した、故障時に別の部品へ交換した、配線や配管の経路を変えたなど、過去の変更が図面へ反映されていない場合があります。図面へ記載された寸法が製作時の値で、現在の取付位置や周辺との距離が変わっている可能性もあります。
運営者も、元の図面が残っていない設備や、図面と現物の寸法・取付位置が違う設備の改造に関わってきました。その場合は図面だけで決めず、スケッチ、寸法測定、現物と周辺の確認を使い分けて、改造部分と既設部分が接続する条件を整理しています。これは運営者が関わった案件での経験であり、すべての設備で同じ調査方法になるという意味ではありません。
現地で確認する対象を接続部から広げる
改造する部品だけを測っても、既設設備へ取り付かないことがあります。新しく作る部分と既設部分が接する位置や条件を、機械設計では「取り合い」と呼ぶことがあります。
- 取付位置:穴、ねじ、基準面、中心、高さ、向き
- 周辺空間:部品を置く場所、動く範囲、工具や手が入る範囲
- 前後設備:製品を受け取る位置、渡す位置、搬送高さ、タイミング
- 配線・配管:接続位置、経路、曲げるための空間、既存機器との干渉
- 作業時の条件:カバーの着脱、部品交換、清掃、点検、搬入
- 設備の状態:摩耗、変形、がたつき、応急修理や追加部品の有無
どの寸法を測るかは、改造する部分の基準をどこに置くかで変わります。全長や全幅だけでなく、既設設備のどの面、穴、軸中心、床面などを基準にするのかを記録します。寸法だけが残っていても、測り始めた位置が分からなければ設計へ使えないためです。
写真を撮れない現場では記録方法を先に決める
客先や工場によっては、設備、製品、製造方法、画面表示などが機密情報に当たり、写真や動画の撮影が制限されます。現地調査だから撮影してよいとは考えず、撮影できる場所、写してよい対象、データの保存・持ち出し・共有範囲を確認します。
撮影できない場合は、手書きのスケッチへ寸法、方向、部品名、基準位置、未確認箇所を記入します。既存図面を持ち込める場合は、現物と違う箇所へ印を付ける方法もあります。記録には、測定値だけでなく、どこからどこまでを測ったか、設備のどちら側から見たかを残します。
見えない・測れない箇所は推測で確定しない
稼働中で止められない、カバーを外せない、高所や狭い場所にある、危険区域へ入れないなど、その日に確認できない箇所もあります。見えない部分を図面や周囲の形だけから推測し、そのまま確定寸法として使うと、製作後に取り付かない原因になります。
運営者は、その日に見られない箇所があれば、担当者へ設備を確認できる日時を聞き、再確認につなげています。状況によっては昼休憩などを利用する場合もあります。電気・制御、配管など別の専門分野に関係する箇所は、その担当者と確認できる日程や範囲を調整します。
確認できた事実、資料から読み取った内容、推定した内容、未確認の内容を分けて記録します。追加調査、設備停止時の確認、仮合わせ、現地で調整できる構造など、次の対応は案件の安全条件、費用、納期、製作方法によって変わります。
注意:設備を停止する、カバーを外す、機械の内部へ入る、電源や圧力源へ触れるなどの作業は、現場の責任者、作業手順、必要な教育・資格、エネルギー遮断の方法を確認して行います。この記事の確認項目だけで作業の安全が保証されるものではありません。
改造によって変わる安全条件も確認する
厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」は、機械の設計・製造だけでなく、改造等を行う者も対象に含めています。
機構や動作を変更すると、危険な場所へ人が近づく可能性、カバーやインターロックの働き、清掃・点検・部品交換の方法が変わることがあります。改造する部分が取り付くかだけでなく、変更後の使い方や保全作業も含めて危険源と対策を確認します。必要な確認内容は、設備の用途、作業、使用環境、法令、規格、顧客基準によって異なります。
調査結果を設計条件へ変える
現地で集めた情報は、測定メモのままではなく、設計で使う条件へ整理します。たとえば「この辺りに空きがある」ではなく、どの基準からどの範囲が使えるのか、「保全しにくい」ではなく、どの部品をどの方向へ外すときに工具や手が入らないのかを記録します。
| 現地で得た情報 | 設計条件にするときの記録例 |
|---|---|
| 取付穴を測った | 基準面、穴径、穴間隔、ねじの種類、測定方法 |
| 周囲が狭い | 干渉する対象、使える範囲、取付・取外し方向 |
| 図面と位置が違う | 図面値、実測値、確認日、現物を優先する範囲 |
| 写真を撮れない | スケッチ番号、見る方向、寸法の起点、未確認箇所 |
| 設備を止められない | 確認できた範囲、確認できない理由、再確認の条件 |
調査後に設計者だけで判断できない内容は、使用者、保全担当者、電気・制御担当者、製作・工事担当者などへ確認します。たとえば、取り付けられる形でも、清掃時に外せない、配線できない、工事時間内に交換できないという別の問題が残る場合があります。
まとめ
- 既設設備の改造では、変える部分と残す部分を先に分ける
- 図面や資料があっても、現在の現物と一致しているかを確認する
- 改造部分だけでなく、取付位置、周辺空間、前後設備、配線・配管まで確認する
- 確認順序は改造内容、稼働状況、立会い条件に合わせて変える
- 写真や動画は客先の許可と情報管理ルールを優先し、スケッチや寸法測定も使う
- 確認済み、資料情報、推定、未確認を分け、見えない箇所を推測だけで確定しない
機械設計が図面作成だけではなく、目的確認から製作、据付、試運転、保全まで関係する理由は、「機械設計とは?図面だけではない仕事と設備ができるまで」で全体の流れを整理しています。
設計時に確認が抜けやすい項目は、「機械設計で起こりやすい失敗と防止策|実務で確認したい7項目」で、仕様、取り合い、組立、保全、搬入などに分けて記載しています。
既設設備の改造設計について相談を検討されている場合は、設備の概要、改造したい内容、既存図面やCADデータの有無、希望時期など、現在分かっている範囲を機械設計のご相談・お問い合わせからお知らせください。内容を確認し、対応できる範囲をご連絡します。
参考ページ
- 厚生労働省「機械の包括的な安全基準に関する指針」の改正について:機械の設計・製造・改造等で行う安全確認の基本となる公式資料です。
- 有限会社保屋野製作所「対応分野」:図面がない設備を、現物確認、スケッチ、採寸から設計する公開例です。
- 株式会社芝田化工設計「3Dレーザースキャナ計測業務」:既設プラントの修繕・改造で、現地計測を設計へ使う例です。
