工場では、材料から製品を作る、部品を組み立てる、完成した物を検査するなど、さまざまな仕事が行われています。その中で、人の作業を助けたり、物を運ぶ、測る、加工するといった生産に必要な仕事を行う機械や装置を、生産設備と呼ぶことがあります。
生産設備の設計では、目的に合わせて、形、大きさ、動き、使う部品、作り方などを考えます。CAD(キャド)という、パソコンで図面や立体の形を作るソフトも使います。ただし、最初からCADで形を作り始めるわけではありません。「何をする設備か」「何を扱うか」「どれくらいの量を処理するか」「いつまでに必要か」など、設計するための条件を先に確認します。
設備に求める条件を、仕様と呼ぶことがあります。ただし、最初からすべての仕様が決まっている仕事ばかりではありません。見積では必要な作業や金額、期間などを考え、構想では設備の大まかな仕組みを考えます。その後の設計へ進むためにも、分かっていることと決まっていないことを整理しながら条件を詰めていきます。
仕様の内容、言葉の使い方、誰がどこまで担当するか、誰が決めるかは、作る製品の分野、会社、設備、仕事の進め方、依頼された範囲、関わる人の立場などによって変わります。同じ確認方法が、すべての設備にそのまま使えるとは限りません。
仕様確認で出てくる主な言葉
本文で使う主な言葉を簡単に整理します。同じ言葉でも、会社や業界、設備によって意味や使う範囲が違う場合があります。
- 製品:工場で作る物。完成品だけでなく、工程途中の部品などを指す場合もある
- 材料・原料:製品や部品を作るもとになる金属、樹脂、粉、液体など
- 工程:準備、加工、組立、検査など、製品ができるまでの仕事の段階や順番
- 顧客・客先:設備を依頼する人や会社。設備を実際に使う側を指すこともある
- 対象物:設備が運ぶ、加工する、測る、検査する物。製品、部品、材料など
- 材質:対象物や部品などに使われている材料の種類
- 納期:設備の納入や図面の提出などを求められる時期・期限
- 見積:仕事を正式に始める前に、必要な作業、金額、期間、主な条件などを考えて相手へ示すこと
- 受注:依頼内容や条件を確認し、正式に仕事を受けること
- 仕様:設備に何をさせるか、どのような条件を満たすかなど、設計や製作の前提になる内容
生産設備の仕様とは
仕様書は、設備に求める動き、能力、寸法、使う場所、安全、納期などの条件をまとめる資料の一つです。ただし、必要な仕様が一冊の仕様書だけにまとまっているとは限りません。形や寸法を示す図面、打合せ資料、メール、見積に記載した条件、顧客から受け取った資料など、複数の資料へ分かれていることもあります。
例えば搬送設備なら、何を、どこからどこまで、どの向きで、何個ずつ、どのくらいの時間で運ぶのかによって、設備の形や動きが変わります。同じように物を運ぶ設備でも、扱う物、使用する場所、工程などが変われば、清掃、安全、記録、使用する材料などの条件も変わることがあります。
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」の「機械設計技術者」でも、機械設計の仕事の一例として、顧客の要望を確認し、社内や関係会社と情報を共有してすり合わせを行い、使用する技術、資材、部品などを考えながら基本的な仕様を決めていく流れが紹介されています。
設計を始めるには何らかの条件が必要
設備の形や動きを考えるには、少なくとも何をする設備なのか、何を扱うのかといった目的や条件が必要です。何も分からないまま条件を決めてしまうと、顧客が必要としている設備と違うものになる可能性があります。
一方で、すべての仕様がそろうまで何もできないということでもありません。分かっている内容から質問を作り、回答を整理し、必要に応じて方法や選択肢を提案しながら、設計に使える条件へ変えていきます。
これまでの設計でも、最初から必要な条件がすべてそろっている仕事ばかりではありません。考えられる方法や注意する点を伝え、顧客と相談しながら細かな条件を決めていくことがあります。最終的な判断を顧客が行う場合も多いですが、誰が決めるのか、どこまで担当するのかは、会社や案件、依頼された範囲によって変わります。
最初に確認したい主な条件
確認項目を並べたものは、チェックリストとして使うことができます。ただし、同じチェックリストだけをすべての設備に使うと、その設備に必要な条件が抜けることがあります。次の表は、設計を始めるときに考える入口の例です。
| 確認する条件 | 質問へ置き換えた例 |
|---|---|
| 目的・工程 | 何をする設備か。直前と直後にはどのような作業があるか |
| 対象物・材質 | 何を扱うか。大きさ、重さ、形、材質、状態に違いがあるか |
| 能力・タクト | 一定時間にいくつ処理する必要があるか。1回の動作に使える時間はどれくらいか |
| 品質・確認方法 | どの状態を合格とするか。どこで何を測定・検査するか |
| 納期・作業予定 | いつまでに必要か。設計、製作、組立、試運転などに使える期間はどれくらいか |
| 設置・使用条件 | どこで、誰が、どのように使うか。清掃、点検、修理、部品交換をどのように行うか |
| 担当範囲 | 機械、電気・制御、配管、設置工事、前後設備などのどこまでを誰が担当するか |
| 決定者 | 誰へ質問し、誰が最終的に仕様を決めるか |
能力・タクト・サイクルタイムを分けて確認する
能力は、決められた時間や条件の中で、設備がどれだけの数量を処理できるかを表すときに使われます。タクトタイムは、必要な生産量に合わせて製品を送り出す目標の時間間隔として使われることがあります。サイクルタイムは、一連の動作にかかる時間などを表すときに使われます。
ただし、これらの言葉の意味や、どこからどこまでの時間を測るのかは、会社や設備によって違うことがあります。「タクト30秒」とだけ聞いて終わらせず、何を1個と数えるのか、人が作業する時間、製品の交換、検査、機器同士の信号、次の動作を待つ時間などを含むのかまで確認します。
工程をたどると必要な仕様を見つけやすい
生産設備を初めて知る場合は、設備の名前だけで考えるより、製品や材料がどのような順番で動いていくのかを追うと、必要な仕様を考えやすくなります。
- 材料や原料を準備する
- 次の場所へ運ぶ
- 重さ、量、位置などを測る
- 加工、成形、組立などを行う
- 向きや位置、間隔などをそろえる
- 寸法、外観、動作などを検査する
- 結果を確認し、次の工程へ渡す
これは工程を考えるための一例です。すべての設備にこの七つの工程があるわけではありません。順番が違う、同じ工程を繰り返す、人の作業と設備の動作を組み合わせるといった設備もあります。
工場の流れを初めて見る場合は、トヨタ自動車の子ども向けページ「クルマをつくる工場を見てみよう」で、プレス、溶接、塗装、組立、検査など、自動車ができるまでの工程を見ることができます。これは自動車工場の一例なので、すべての工場が同じ工程になるわけではありません。
決定済み・仮条件・未確定・対象外に分ける
仕様を一度の打合せですべて決められるとは限りません。その場合は、「決まっていること」「設計を進めるために仮に置いたこと」「まだ確認できていないこと」「今回の担当ではないこと」を分けておきます。
| 分け方 | 記録する内容の例 |
|---|---|
| 決定済み | 決まった内容、誰と確認したか、いつ・どの資料や打合せで決まったか |
| 仮条件 | 設計を進めるために置いた値や方法、仮にした理由、変更された場合の影響 |
| 未確定 | 確認する内容、確認先、回答が必要な時期 |
| 対象外 | 今回の担当に含めない範囲と、必要に応じて担当する人や会社 |
特に気を付けたいのは、仮条件を確定した仕様のように扱わないことです。
すべての未確定事項を同じ優先度で追うと、先に決めなければ設計できない項目が埋もれることがあります。例えば対象物の最大寸法が決まらなければ設備の幅を決めにくい一方で、条件によっては後から確認できる内容もあります。何を先に決める必要があるかは、設備や工程、設計の進み具合によって変わります。
見積段階でもヒアリングと仮定が必要になる
見積段階では、仕事を正式に受ける前に、必要な作業、金額、期間、主な条件などを考えます。この時点では、受注後の詳細な設計と同じ深さまで、すべての条件を確認できないことがあります。
一方で、条件が少なすぎるまま金額や納期を出すと、受注後に想定していなかった仕様が分かり、見積金額、設計時間、製作期間などと合わなくなることがあります。
そのため、見積時にも設備の目的、対象物、能力、主な動作、担当範囲、納期などを確認します。確認できない内容については、必要に応じて仮定や見積条件として分けておきます。仮定を置かなければ進められない場面はありますが、仮定した内容を顧客が決めた仕様のようには扱いません。
受注後は、設備の形や動きを決める設計、部品を作る製作、部品を設備として組み上げる組立、完成した設備を実際に動かして確認・調整する試運転などに必要な深さまで仕様を詰めていきます。見積時の資料をそのまま確定した仕様とせず、前提条件が変わっていないかも確認します。
仕様変更は小さく見えても影響範囲を確認する
一つの仕様を変更すると、別の条件へ影響することがあります。変更する部品が小さく見えても、図面、購入品、電気・制御、製作、組立、納期、費用、試運転などまで確認し直す必要が出ることがあります。
| 変更例 | 影響を確認する例 |
|---|---|
| 対象物の大きさ・材質が変わる | つかみ方、通過できる幅、重さや力、センサー、対象物と触れる部分、検査方法 |
| 必要能力・タクトが変わる | 機器の速度、複数動作を同時に行えるか、待ち時間、人や前後設備との受け渡し |
| 設置場所が変わる | 設備寸法、搬入方法、床、配線・配管、前後設備との接続 |
| 納期が短くなる | 設計期間、購入品の納期、製作・組立・試運転に使える時間 |
| 検査条件が変わる | 測定方法、合格・不合格の判断、記録、不合格品の処理、検査に必要な時間 |
これまでにも、最初に聞いていた内容と実際に必要な仕様が大きく違う、確認したい情報がすぐには分からない、確認する時間や納期が足りない、途中で変更が続くといったことがありました。
そのようなときに、どの案件でも使える一つの解決方法があるわけではありません。何が変わったのか、その変更がどこへ影響するのか、いつまでに誰の判断が必要なのかを整理し、顧客や関係する担当者と相談しながら進めます。
設計時の確認不足がどのような問題につながるかは、「機械設計で起こりやすい失敗と防止策|実務で確認したい7項目」で、機器の能力・選定、電気・制御とのすり合わせ、動作時間、組立、部品リスト、搬入・据付などに分けて整理しています。
記録方法は一つに固定しない
決まった内容、未確定事項、変更内容などは、後から確認できる形で残します。どの資料を使うかは案件によって違います。
- メール:質問、回答、確認した日時や相手などを文章で残す
- 図面:部品や設備の形、大きさ、材料、数量などを線、数字、記号で示す
- 仕様書:設備に求める動き、能力、使用条件、担当範囲などをまとめる
- 打合せ資料:話し合う内容、案、質問、比較などを関係者へ示す
- 議事録:打合せで決まったこと、決まらなかったこと、次に確認することなどを記録する
すべての顧客や打合せで正式な議事録が作られるわけではありません。図面や資料へ確認日、仮条件、未回答事項を記載したり、打合せ後に確認内容をメールで送ったりすることもあります。
どの記録が正式な合意になるのかは、顧客の運用や契約などによって変わります。記録を残したことと、相手が正式に承認したことは分けて考える必要があります。
業界や設備が違えば仕様の見方も変わる
生産設備は、機械部品、電子部品、食品、医薬、化学、金属、エネルギーなど、さまざまな分野で使われています。設備の分け方、工程、専門用語、優先する条件も同じではありません。
同じ分野の設備であっても、対象物、工程、能力、会社の基準、担当範囲などが変われば、確認する内容も変わります。別の設備で使われていた方法を、そのまま自分の設備へ当てはめられるとは限りません。
安全条件は仕様を考える段階から確認する
安全対策を設備が完成してから追加しようとすると、設備の位置や間隔、動き、操作方法、点検や修理の方法などを大きく変更しなければならない場合があります。
何に使う設備なのか、誰が使うのか、点検や清掃をどのように行うのか、人に危険を及ぼす可能性がある動きや場所はどこか、電気、圧縮空気、油圧などのエネルギーがどこにあるのかを、構想や設計の段階から確認していきます。
機械の安全を考える方法の一つにリスクアセスメントがあります。機械をどのように使うのか、人がどのような作業で関わるのかを確認し、人への危害につながる可能性があるものや状態を危険源として洗い出し、リスクを見積もり、必要な対策を検討していきます。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の「機械の包括的な安全基準」では、機械の使用上の制限などの仕様を決め、危険源を特定し、リスクを見積もり、リスク低減の必要性を検討する流れが示されています。
対策についても、最初からガードや注意表示だけを考えるのではなく、設計そのもので危険をなくしたり小さくしたりする本質的安全設計方策を先に検討し、その後に安全防護、付加保護方策、使用上の情報などを考えていく流れが示されています。
実際の設備では、適用される法令や規格、顧客の安全基準、設備の使われ方なども確認して対策を決めます。
ここにある確認項目だけで、必要な能力や品質を満たすこと、安全であること、法令や規格に適合することまで判断できるわけではありません。個別の設備では、対象物、使用場所、作業方法、危険源、担当範囲などを確認し、必要な分野の担当者と検討します。
仕様確認を進めるときの整理例
- 設備の目的と工程を確認する
- 対象物、能力、タクト、材質、納期などの入口条件を集める
- 決定済み、仮条件、未確定、対象外へ分ける
- 決まらなければ設計を進めにくい内容から優先して確認する
- 必要に応じて方法や選択肢を提案し、誰が決めるのかを確認する
- メール、図面、資料、議事録など、案件で使える方法で記録する
- 仕様変更時は、変更した部分だけでなく、部品、費用、納期、他分野への影響も確認する
この順番も固定された手順ではありません。必要な情報が早い段階でそろう仕事もあれば、実物や動作を一緒に確認したり、何度か打合せを行ったりしながら仕様を決めていく仕事もあります。
実際には、設計を進めながら新しく分かることもあります。最初にすべてを完全に決めることより、分かっていることと分かっていないことを分け、誰と何を確認しなければならないのかを把握しながら進めます。
まとめ
- 生産設備を設計するには、目的や対象物など何らかの条件が必要になる
- 仕様がそろっていない場合は、質問、提案、相談をしながら必要な条件を詰めていく
- 納期、能力、タクト、対象物、材質などは入口になるが、何を優先するかは案件によって変わる
- 決定済み、仮条件、未確定、対象外を分け、設計への影響が大きい内容から確認する
- 見積段階の仮定と、受注後に確認した仕様を同じものとして扱わない
- 仕様変更では、図面だけでなく部品、電気・制御、製作、費用、納期などへの影響も確認する
- 業界、設備、会社、立場、担当範囲によって確認方法や判断は変わる
仕様確認、大まかな仕組みを考える構想、形や動きを決める設計、製作、組立、搬入・据付、試運転まで、生産設備ができるまでの全体の流れは、「機械設計とは?図面だけではない仕事と設備ができるまで」で整理しています。
すでに工場で使われている設備を変更する場合は、新しく作る設備とは確認する条件が変わります。図面が残っているか、図面と現物が一致しているか、設備を停止して確認できるかなど、既設設備特有の確認については、「既設設備の改造設計|図面がない・現物と違うときの確認」でまとめています。
