機械設計で部品図を描いていると、「この寸法の公差はどこまで厳しくするべきか」と迷うことがあります。
公差は、小さくすればするほど良いわけではありません。
まず考えたいのは、その寸法が何のために必要なのかです。
相手部品と組み付くためなのか、位置を決めるためなのか、動くためのすきまが必要なのか、購入品を取り付けるためなのか。必要な機能によって、公差の考え方は変わります。
さらに、相手部品、材質、形状、加工方法、測定方法、組立方法、購入品の仕様なども確認しながら、必要な公差を決めていきます。
この記事では、公差表の数値を並べるのではなく、機械設計で寸法公差を決めるときに、まず何を見て、どのように考えるかをまとめます。
寸法公差とは
加工して作る部品には、どうしても寸法のばらつきが生じます。
たとえば、図面に100mmと書かれていても、実際に加工された部品がすべて100.000mmになるわけではありません。
そこで、どこまでの寸法を許容するかを図面で決めます。
たとえば100±0.1mmと指示した場合、許容される寸法は99.9mmから100.1mmです。
この場合、上限の100.1mmと下限の99.9mmとの差である0.2mmが寸法公差になります。
実務では「±0.1の公差」などと表現することもあります。最初は、製作した部品には寸法のばらつきがあるため、「どこまでなら使えるのか」という範囲を決めていると考えると分かりやすいと思います。
なお、この記事で主に扱うのは寸法公差です。平面度、直角度、平行度、位置度などを指示する幾何公差とは分けて考えます。
公差は厳しいほど良いわけではない
図面だけを見ていると、公差を厳しくした方が部品のばらつきが小さくなり、精度の高い設計に感じるかもしれません。
しかし、公差を厳しくすると、加工方法、加工工程、測定方法などにも影響します。
材質や形状によっては加工が難しくなったり、追加の加工や測定が必要になったりすることもあります。
反対に、公差を広く取りすぎると、部品が組み付かなかったり、必要な位置を保てなかったり、動作に必要なすきまを確保できなかったりする可能性があります。
目指すのは単純に厳しい公差ではなく、その部品や機構に必要な機能を満たし、実際に製作・測定・組立できる公差です。
公差を決める前に、まずその寸法の役割を見る
公差を考えるときは、最初から公差表の数字を探すのではなく、その寸法が何を決めているのかを確認します。
- 何と組み合わさる寸法なのか
- その寸法が大きくなったり小さくなったりすると何が起きるのか
- 固定する部分か、動く部分か
- 位置決めに使うのか
- 相手部品の寸法や公差はどうなっているか
- 購入品や規格品と組み合わせるのか
- 材質や形状はどうなっているか
- どのような方法で加工するのか
- どのように測定するのか
- どのように組み立て、調整するのか
- 温度や荷重などの影響を受けるのか
すべての寸法について、毎回この項目を一つずつ確認するという意味ではありません。
その寸法に関係する条件を見ながら、「この寸法が外れたら実際に何が困るのか」を考えていきます。
同じ100mmという寸法でも、単なる部品の長さなのか、他の部品との位置を決める寸法なのかによって、必要な公差は変わります。
普通公差と個別に指示する公差を使い分ける
部品図のすべての寸法へ、一つずつ個別の公差を書く必要があるとは限りません。
個別に公差を指示していない寸法について、あらかじめ決めた普通公差を適用し、機能上重要な寸法には個別に公差を指定する方法があります。
普通公差は、会社や図面によって「一般公差」と呼ばれていることもあります。
大切なのは、何も考えずにすべて普通公差へ任せることではありません。
組立、位置決め、摺動、回転、シール、他部品との干渉など、機能に直接関係する寸法については、普通公差の範囲で問題ないかを確認します。
また、切削、板金、溶接、鋳物など、部品の作り方によって適用する基準や考え方が異なる場合があります。
どの普通公差を使うのかは、図面の注記、表題欄、客先仕様、社内の製図基準、加工方法などを確認して判断します。
軸と穴の「はめあい」は、公差を考える分かりやすい例
寸法公差を考える代表的な例が、軸と穴のはめあいです。
たとえば20mmの軸を20mmの穴へ入れる場合でも、実際に作られた軸と穴がどちらも必ず20.000mmになるわけではありません。
軸と穴のそれぞれに寸法のばらつきがあるため、どのような状態で組み合わせたいのかを考えて、公差の関係を決めます。
はめあいには、大きく分けて、すきまができる「すきまばめ」、実際の寸法の組み合わせによってすきままたはしめしろが生じる「中間ばめ」、しめしろを持たせる「しまりばめ」があります。
図面ではH7、h6、g6などの記号を見ることがあります。アルファベットと数字の組み合わせによって、穴や軸の公差域の位置と公差等級を表します。
ただし、記号を公差表から選べば設計が終わるわけではありません。
動かしたいのか、位置を決めたいのか、しっかり固定したいのか、組立や分解をどのように行うのかなど、必要な機能を先に考えます。
ベアリングのはめあいはメーカー資料まで確認する
転がり軸受(ベアリング)は、「ベアリングだから軸はこの公差」と一律に決めない方がよい部品の一つです。
軸受のはめあいは、荷重に対して内輪や外輪がどのような状態になるのか、荷重の大きさ、使用条件などによって選び方が変わります。
また、荷重、はめあい面の粗さ、運転中の温度などによって、必要なしめしろや実際のはめあい状態が変わることがあります。
軸やハウジングへしまりばめで取り付けると、軸受の内輪や外輪が変形し、軸受内部のすきまにも影響します。
そのため、使用する軸受の種類、荷重、回転条件、温度などを確認し、メーカーのカタログや技術資料を見ながら決めていきます。
購入品と組み合わせる部分は、先にメーカー資料を見る
ベアリングだけでなく、LMガイド、ブッシュ、モータ、減速機、シリンダなどの購入品には、メーカーが決めている寸法や取付条件があります。
購入品そのものの寸法は設計側で自由に変えることができないため、相手側となる製作部品を設計するときは、使用する製品の資料を確認します。
見るものは外形寸法だけとは限りません。
取付面、基準面、必要な精度、相手部品の寸法、推奨される公差、取付方法、締付条件などが、カタログや技術資料に記載されていることがあります。
たとえばTHKのLMガイドでは、取付面と突きあて面の直角度、突きあて面の高さや厚さ、突きあて面から取付穴までの寸法公差など、取付部を設計するときの注意点が公開されています。
購入品を取り付ける部分は、経験だけで公差を決めず、実際に使用する型式のカタログ、技術資料、取扱説明書、外形図などを確認することが基本です。
寸法公差だけを厳しくしても精度が出ないことがある
部品や機構によっては、寸法公差だけを考えても必要な精度を確保できません。
たとえば、長さ寸法が正しくても、取付面が傾いていたり、面が反っていたり、二つの面が平行になっていなかったりすれば、組み立てた機械の精度に影響することがあります。
このような場合は、平面度、真直度、平行度、直角度、位置度などの幾何公差や、必要に応じて表面粗さなども確認します。
寸法公差を必要以上に厳しくすることで、形状や位置の精度まで管理しようとするのではなく、何を管理したいのかに合わせて図面の指示方法を考えます。
一つの公差だけでなく、寸法のつながりも見る
部品単体の一つの寸法だけを見れば問題がなくても、複数の寸法を通して位置が決まる場合は、それぞれの公差が積み重なります。
たとえば、基準となる面から目的の穴位置までを複数の寸法に分けて指示していると、それぞれの寸法のばらつきによって、最終的な穴位置のばらつきが大きくなることがあります。
特に、相手部品との位置関係や組付位置を重要に管理したい場合は、一つ一つの公差だけでなく、どの基準から寸法を取っているのか、途中にいくつの寸法が入っているのかまで確認します。
必要に応じて、重要な位置を基準面から直接指示する、基準の取り方を見直す、幾何公差を使うなど、寸法の入れ方そのものを見直すこともあります。
材質・形状・加工方法でも公差の考え方は変わる
同じ数値の公差を図面へ記載しても、どの部品でも同じように作れるとは限りません。
材質、部品の大きさ、厚さ、長さ、形状、加工方法、加工するときの基準の取り方などによって、製作のしやすさは変わります。
長い部品や薄い部品では、加工中や加工後の変形について考える必要がある場合もあります。
また、公差を指示するのであれば、その寸法をどのように測定するのかも考えます。
図面では簡単に数値を書けても、実際の形状では測定が難しかったり、組み立てたあとでは測れなかったりすることがあります。
設計、加工、測定、組立は別々の話ではなく、実際に部品を作り、機械として成立させるところまでつながっています。
加工・製作側から「この公差は厳しい」と言われたら
実務では、図面を出したあとに加工・製作側から「この公差は厳しい」「この形状では加工しにくい」と相談を受けることがあります。
その場合は、単純に「図面どおり作ってください」で終わらせるのではなく、まず何が難しいのかを確認します。
材質なのか、形状なのか、加工方法なのか、加工の基準なのか、測定方法なのか。それによって対応は変わります。
同時に設計側でも、その公差が本当に必要なのかをもう一度確認します。
機能上必要な精度であれば、加工が難しいという理由だけで公差を広げることはできません。加工方法を変える、基準を変える、部品形状を見直すなど、別の方法を考える必要が出ることもあります。
反対に、機能上そこまでの精度を必要としていなければ、公差を見直せる場合もあります。
大切なのは、図面に入れた公差について「なぜこの公差が必要なのか」を説明できることです。
機械全体ではなく、精度が必要な部分を見る
必要な公差は、扱う機械や設備によっても変わります。
精密な位置決めをする装置と、大きな架台や構造物を、すべて同じ公差で設計することはありません。
ただし、「精密機械だから全部厳しい」「大型設備だから全部緩くてよい」という分け方でもありません。
大型の設備でも、ベアリングの取付部、位置決め部、ガイド周辺などには精度が必要なことがあります。
逆に、高精度な機械でも、すべての部品のすべての寸法に同じ精度が必要なわけではありません。
機械の種類だけで決めるのではなく、その中のどの部分に、何のための精度が必要なのかを見ていきます。
公差に迷ったときの確認順
公差に迷ったときは、いきなり公差表から数字を選ぶのではなく、次のような順番で確認すると整理しやすくなります。
- その寸法の役割を確認する
何のための寸法なのか、その寸法が外れたら何が起きるのかを確認します。 - 相手部品を確認する
何と組み合わさるのか、相手側の寸法、公差、材質、精度などを確認します。 - 購入品・規格品の資料を確認する
メーカーのカタログ、技術資料、取扱説明書、外形図などに条件が示されていないか確認します。 - 基準と寸法のつながりを確認する
複数の寸法や公差が積み重なって、必要な位置やすきまから外れないかを確認します。 - 寸法公差以外の精度も確認する
平面度、直角度、平行度、位置などが重要な部分では、寸法公差だけでよいかを確認します。 - 加工・測定・組立まで考える
材質、形状、加工方法、測定方法、組立、調整などを含めて成立するかを確認します。 - 必要なところに必要な公差を入れる
機能上必要な部分は個別に検討し、それ以外の寸法まで必要以上に厳しくしないようにします。 - 判断できなければ関係者へ確認する
加工、組立、購入品メーカーなど、その内容を確認できる相手へ相談します。
実際の設計では、この順番が前後することもあります。
それでも、「公差はいくつにするか」から始めるより、「何を成立させるための寸法なのか」から考える方が、必要な確認が見つけやすくなります。
まとめ
機械設計の公差には、すべての部品へそのまま使える一つの数値があるわけではありません。
相手部品、必要な機能、材質、形状、加工、測定、組立、購入品、メーカー仕様、使用条件などによって判断は変わります。
普通公差でよい寸法もあれば、個別に寸法公差を決める必要がある部分もあります。また、一つの寸法だけではなく、公差の積み上がりや基準の取り方まで見た方がよい場合もあります。
寸法公差だけでは必要な精度を管理できない部分では、幾何公差や取付面の精度についても確認します。
購入品を使う部分では、まず実際に使用する製品のメーカー資料を確認します。製作部品では、加工や測定、組立まで考え、必要であれば加工・製作側とも相談します。
公差を厳しくすることが目的ではなく、必要な機能を確保しながら、実際に製作・測定・組立できる図面にすることが重要です。
