機械を動かすモーター、空気の力で物を押したり引いたりするシリンダ、回転する部品を支える軸。生産設備には、異なる役割を持つ多くの機械部品が使われています。
設計者は、必要な力、速さ、重さ、使い方などをもとに、部品の能力や寸法を決めます。この確認は「能力計算」や「選定」と呼ばれます。ただし、計算で一つの数値を出し、その数値より大きな部品を選べば終わりとは限りません。
客先指定のメーカーや型式、点検・交換のしやすさ、予備品の共通化、納期、費用、設置できる広さも選定に関係します。さらに、図面を出した後や部品の製作が始まった後に条件が変わると、その時点で実行できる対応も変わります。
この記事では、モーター、シリンダ、軸径を例に、条件を整理し、自分で計算し、メーカーへ選定を依頼し、過去の実績も確認しながら判断する流れを説明します。設備全体の目的や能力を設計前に整理する方法は、「生産設備の仕様確認|設計前に決めることと未確定事項の進め方」で扱っています。
最初に:部品の選定方法、計算条件、必要な余裕、確認する人、最終的に決定する人は、設備、会社、担当範囲、契約、使用環境によって異なります。メーカーのカタログや選定結果も、入力した条件と適用範囲を確認して使用します。この記事だけで個別設備の性能や安全性を保証するものではありません。
能力と寸法は「大きめ」で終わらない
この記事でいう能力は、部品が出せる力や回転させる力、支えられる荷重、動かせる速さなどを指します。寸法は、部品全体の大きさだけでなく、軸の直径、取付部分、周辺部品と組み合う部分なども含みます。
必要な能力に届かなければ、物を動かせない、押す力が足りない、決めた時間で動作できない、部品が変形するといった問題につながる場合があります。そのため、計算値と同じ能力ではなく、条件のばらつきや変化を考えて余裕を持たせることがあります。
一方で、能力や寸法を上げると、部品が大きく重くなる、費用や納期が変わる、電気や空気の使用量が増える、取付部や周辺部品まで変更が必要になる場合があります。動かす物の重さが増えれば、別の部品に必要な能力も変わります。
「一段上なら安心」と決めるのではなく、能力不足の可能性と、能力を上げたことで生じる影響を両方確認することが大切です。
選定前に、計算の入口となる条件をそろえる
計算式が合っていても、入力する条件が実際の設備と違えば、選定結果も変わります。最初に、何を、どのように、どのくらい動かすのかを整理します。
| 確認する条件 | 質問の例 |
|---|---|
| 対象物と負荷 | 何を動かすか。最大・最小の重さ、重心、ばらつきはどのくらいか |
| 動き | 回す、押す、持ち上げる、止めるなど、どのような動作か |
| 速さと時間 | 移動距離、回転速度、加速・減速時間、停止時間、1日の動作回数はどのくらいか |
| 取付と支持 | 部品をどの向きに取り付け、どこで支えるか。力がどの位置に加わるか |
| 使用環境 | 温度、水、粉じん、洗浄、屋内・屋外など、どのような場所で使うか |
| 供給条件 | 使用できる電源、電圧、空気圧、配線、配管に制約があるか |
| 変化と異常 | 摩擦、圧力、対象物、使い方が変わる可能性や、停止・衝突時の荷重があるか |
| 客先条件 | 指定メーカー、型式、予備品、交換方法、社内標準、購入条件があるか |
すべての条件が最初から決まっているとは限りません。確定した条件、設計を進めるために置いた仮条件、まだ確認できていない条件に分け、どの値で計算したかを残します。最大値だけでなく、通常時、起動時、停止時、異常時など、状態の違いも必要に応じて分けます。
一つの方法だけで決めず、複数の確認を組み合わせる
機械部品の選定では、自分の計算、メーカーへの選定依頼、カタログや選定ソフト、過去に使った部品の実績などを組み合わせます。それぞれに確認できることと、確認しにくいことがあります。
| 確認方法 | 分かること | 注意すること |
|---|---|---|
| 自分で能力計算する | どの条件が結果に影響するか、必要な能力の考え方を確認できる | 計算式、単位、入力条件、荷重の見落としを確認する |
| メーカーへ選定を依頼する | 製品ごとの仕様や使用範囲に基づく候補を確認できる | 設備の実際の条件を正しく伝え、回答の前提と対象範囲を確認する |
| カタログ・選定ソフトを使う | 候補型式、許容値、取付寸法などを比較できる | 資料の版、対象シリーズ、入力項目、注意事項を確認する |
| 過去の実績を見る | 似た設備で実際に使われた型式や保全状況を参考にできる | 対象物、速度、使用時間、環境、取付方法まで同じとは限らない |
| 設計者や関係者が再確認する | 部品単体ではなく、設備全体、納期、製作、保全への影響を確認できる | 誰が何を確認し、どこを最終判断したかを残す |
メーカーへ選定を依頼した場合でも、最終的に設備へ取り付ける設計側は、伝えた条件が正しいか、周辺部品と組み合わせられるか、設備全体の要求を満たすかを確認します。反対に、自分で計算した場合も、製品固有の制限や使い方をメーカー資料で確認します。
モーターは出力の数字だけで選ばない
モーターは、電気の力を回転する動きへ変える部品です。選定では、負荷を回すためのトルク、回転速度、起動・停止の回数、加速・減速に必要な時間、減速機の有無などを確認します。トルクは、軸を回そうとする力を表す量です。
回転する物は、重さだけでなく、重さが回転中心からどのように分布しているかによって動き始めにくさが変わります。この性質に関係する量が慣性モーメントです。同じ重さでも、外側へ広がった形と中心に集まった形では、加速・減速に必要な条件が同じとは限りません。
オリエンタルモーターの公式技術資料「モーター選定のポイント」では、必要トルクだけでなく、許容トルク、運転時間に関する定格、許容負荷慣性などを確認する考え方が示されています。同社の「慣性モーメントの計算式」では、物体の形状や減速機を介した場合の換算式を確認できます。
- 通常運転時と、加速・減速時のトルクを分ける
- 連続運転か、短時間だけ動かすかを確認する
- モーターと負荷の慣性、減速比、伝達効率を確認する
- ブレーキ、位置決め精度、制御方法、電源条件を確認する
- 取付寸法、質量、発熱、周辺部品への影響を確認する
同じ出力表示のモーターでも、種類、速度、使い方、組み合わせる機器によって確認項目は変わります。具体的な型式は、対象シリーズの最新カタログや取扱説明書を確認して決めます。
シリンダは理論推力のほかにも条件がある
空気圧シリンダは、圧縮した空気を使ってロッドを直線方向へ動かす部品です。押す、引く、持ち上げる、位置を切り替えるなどの動作に使われます。
シリンダが出せる理論上の力は、基本的に空気圧と空気を受ける面積から計算します。ただし、実際の選定では、使用圧力、押す側と引く側の違い、動作速度、負荷率、取付姿勢、衝撃、ロッドへ横方向の力が加わらないかなども確認します。
SMCの公式FAQ「エアシリンダの理論出力」では、理論出力の計算とともに、負荷率を考慮する必要が示されています。エアシリンダ機種選定手順でも、シリンダ径だけでなく、製品ごとのカタログや選定資料を確認する入口が案内されています。
- 設備で実際に使用できる最低側の空気圧も確認する
- 押す動作と引く動作で、力を受ける面積が変わることを確認する
- 速度を上げたときの衝撃や停止方法を確認する
- ロッドの長さ、取付方向、案内機構、横荷重を確認する
- シリンダを大きくしたときの空気使用量、寸法、質量、取付部を確認する
推力が不足すると対象物を押し切れない場合があります。一方で、シリンダ径を大きくすれば、周辺部品に加わる力や停止時の衝撃も変わる可能性があります。シリンダだけを一段上げて終わりにせず、受け側の部品や案内機構まで確認します。
軸径は強度だけでなく、たわみと周辺形状も見る
軸は、歯車、プーリー、ローラーなどを支え、回転や力を伝える部品です。軸の直径を決めるときは、ねじる力に耐えられるかだけでなく、横方向の荷重による曲げ、たわみ、支える位置、材料などを確認します。
たわみは、力を受けた部品が弓のように曲がる量です。壊れない強度があっても、たわみが大きいと、位置がずれる、歯車やベアリングの当たり方が変わる、製品の精度に影響する場合があります。必要な変形の小ささを保つ性質は剛性と呼ばれます。
- 回転トルクと、ベルト・歯車・対象物から受ける曲げ荷重
- 軸受で支える位置と、荷重が加わる位置の距離
- 軸の回転速度、繰り返し荷重、起動・停止時の変化
- キー溝、段差、穴、ねじなど、形が変わる部分
- 材料、熱処理、表面状態、加工方法
- ベアリング、カップリング、歯車、シール、組立・分解方法
軸径を上げると強度や剛性が変わりますが、ベアリング、穴径、カップリング、歯車、ケース、加工方法まで変更になる場合があります。規格寸法、入手性、組立方法も含め、軸だけでなく周辺の一つの組合せとして確認します。
客先指定、保全性、予備品も選定条件になる
能力計算で使えそうな部品が見つかっても、そのまま採用できるとは限りません。顧客が使用するメーカーや型式を指定している場合や、工場内で使う部品を統一している場合があります。
部品を統一すると、予備品を持ちやすい、保全担当者が交換方法を理解しやすい、購入先をまとめやすいといった利点があります。一方で、指定品では必要な能力や納期を満たせない場合もあるため、指定の理由と、変更できる範囲を確認します。
| 能力以外の条件 | 確認する内容 |
|---|---|
| 客先指定 | 指定メーカー、型式、シリーズ、指定理由、代替品を認める条件 |
| 保全性 | 点検場所、交換手順、工具、作業空間、調整の必要性 |
| 予備品 | 工場にある在庫、他設備との共通化、供給終了時の代替 |
| 購入 | 価格、納期、最小注文数、入手先、仕様変更の可能性 |
| 周辺との取合い | 取付寸法、配線・配管、制御、カバー、フレーム、他の部品 |
能力、保全性、価格、納期のどれを優先するかは、担当者の立場や設備の状況によって変わります。一つの条件だけで決めず、変更の影響を関係者へ示して確認します。
能力が不安なときに一段上げる場合の確認
計算条件にばらつきがある、将来の負荷増加が考えられる、必要な力の見込みに不安がある場合などに、候補より一段上の部品を検討することがあります。これは選択肢の一つですが、すべての部品で同じように行う決まりではありません。
| 一段上げる前に見る項目 | 影響の例 |
|---|---|
| 能力 | 必要な力・トルク・速度を満たすか。別の制限を超えないか |
| 寸法・質量 | 設置できるか。フレームや取付部を変更する必要があるか |
| 周辺部品 | 軸、ベアリング、カップリング、配管、配線、制御機器を見直すか |
| エネルギー | 電源容量、電流、空気使用量、発熱などが変わるか |
| 動作 | 加速・減速、停止時の衝撃、応答、制御の調整が変わるか |
| 保全・予備品 | 既存在庫と共通化できるか。交換作業や予備品を変更するか |
| 費用・納期 | 購入価格、入手時期、図面や製作の変更範囲が変わるか |
運営者の経験では、モーターやシリンダだけでなく、軸径なども含めて、設計段階で能力や寸法を上げることがあります。そのときは、対象となる部品だけでなく、費用、寸法、質量、電気・空気、周辺部品、保全、予備品など、関係する内容をその都度確認します。
能力不足だけでなく、過剰仕様でも失敗する
運営者は、能力が足りなかった経験と、過剰な仕様によってうまくいかなかった経験の両方があります。能力不足では、たとえば必要な力が出ず、意図した動作ができないことがあります。ただし、具体的な原因は、部品自体の能力、計算条件、摩擦、圧力、取付、周辺の構造、制御など、設備ごとに切り分ける必要があります。
過剰仕様では、費用が増えるだけとは限りません。部品が大きく重くなり、取付部や周辺部品へ影響する、動作や停止時の力が変わる、既存の電源・配管・制御と合わなくなる、納期が延びるなど、別の問題につながる場合があります。
設計時に起こりやすい確認漏れと防止の考え方は、「機械設計で起こりやすい失敗と防止策|実務で確認したい7項目」でも整理しています。
出図や製作が進んだ後は、実行できる対応も変わる
設計中に条件が変わった場合、基本的には関係する内容を見直します。しかし、図面を出す前と、部品の発注や製作が始まった後では、変更に必要な時間、費用、手戻りが異なります。
| 進み具合 | 主に確認すること |
|---|---|
| 構想・設計中 | 候補の比較、能力計算、周辺構造、仕様との整合を広く見直す |
| 出図・発注後 | 変更する図面と型式、発注状況、費用、納期、旧版の使用停止を確認する |
| 製作・組立中 | 作り直す範囲、流用できる部品、追加工、組立手順、試運転への影響を確認する |
| 据付・運転開始後 | 現物の状態、停止できる時間、保全・使用者への影響、変更後の確認方法を整理する |
納期が迫り、出図や製作が進んでいるときは、最初から設計し直す方法だけが実行できるとは限りません。部品変更、周辺部品の補強、動作条件の調整、作り直しなどの候補を出し、その時点で必要な能力と安全上の条件を満たせるか、品質、費用、納期、保全への影響はどうかを比較します。
ここでいう「その時点の最適」は、確認を省いて間に合わせることではありません。進み具合による制約を明らかにし、実行できる候補の中から、必要条件を満たす方法を関係者と決めることです。設備ができるまでの設計、製作、組立、据付(すえつけ)、試運転の流れは、「機械設計とは?図面だけではない仕事と設備ができるまで」で説明しています。
立場が違えば、優先して見る条件も変わる
部品の選定は設計者だけで完結しない場合があります。顧客、設備を使う人、保全担当者、メーカー、購入担当者、製作担当者など、関係する人の立場によって、重視する条件が異なります。
| 主な立場 | 重視する内容の例 |
|---|---|
| 機械設計者 | 必要能力、強度、寸法、周辺部品との組合せ、図面への反映 |
| 顧客・設備使用者 | 生産能力、品質、操作、設備停止の影響、社内標準 |
| 保全担当者 | 点検、交換、予備品、故障時の復旧、部品の共通化 |
| メーカー | 製品仕様、使用条件、選定の前提、製品固有の制限 |
| 購入・管理担当者 | 価格、納期、取引条件、全体の予算と工程 |
| 製作・組立担当者 | 加工できるか、組み立てられるか、変更による手戻り |
どれか一つの立場が常に正しいということではありません。必要な能力を満たすことを前提に、誰がどの条件を確認し、誰が変更の影響を受け、誰が最終的に決めるのかを整理します。
選定結果と判断理由を記録する
同じ計算を後から確認できるように、結果の数字だけでなく、入力条件と判断理由を残します。条件が変わったときに、どこから見直すかを探しやすくなります。
- 対象物、荷重、速度、使用時間、取付方法、使用環境
- 使用した計算式、資料、選定ソフト、カタログの版
- 確定条件、仮条件、未確定事項
- 自分の計算結果と、メーカーへ伝えた条件・回答
- 過去実績と今回の条件の同じ点・違う点
- 一段上げた、指定品を変えた、変更しなかった理由
- 周辺部品、費用、納期、保全、安全に関する確認結果
- 確認者、決定者、確認日、変更した図面や資料
メーカーの選定回答も、メールや型式だけを残すのではなく、どの条件を伝え、どこまで確認してもらったかを記録します。過去実績は「以前使えたから今回も使える」とするのではなく、今回との違いを確認する材料にします。
まとめ
- 部品の選定は、必要な力や寸法だけでなく、動き、時間、取付、環境、客先条件から始める
- 自分の計算、メーカー選定、カタログ、過去実績を組み合わせ、前提と違いを確認する
- モーターはトルクや速度に加えて運転時間や慣性、シリンダは理論推力に加えて負荷率や姿勢、軸径は強度に加えてたわみや周辺形状を見る
- 一段上げる場合は、寸法、質量、周辺部品、エネルギー、保全、費用、納期への影響を確認する
- 能力不足と過剰仕様の両方に問題があり、単純に大きい部品を選べばよいとは限らない
- 出図や製作が進んだ後は、必要条件を守りながら、その時点で実行できる対応を関係者と比較する
能力や寸法の判断は、部品だけを見て終わる仕事ではありません。設備の目的、関係者の立場、納期、工程、製作の進み具合を含め、確認できた事実と残っている不確定条件を分けることが、見直しのできる設計につながります。
